*「失業を永久になくすと同時にインフレ率を抑制する、政府はそれを実現する力があるのに、無知や悪意ゆえに実行を拒んでいる」を中心的主張とする現代貨幣理論(MMT)は政治経済学の学説として特に民主党左派で勢いを強めている。

*MMTは戦争時の経済の運営方法を平時にも適用する理論と考えるとよく理解できる。すなわち、民衆に対する権力が及ぶ限り、政府は「公共の目的」のために必要なあらゆることを実施する。米国政府は第2次世界大戦中、インフレ率や信用力についてリスクを負うことなく、国内総生産(GDP)の20%超の財政赤字となる予算を計上することができた。ただし、そのためには配給、賃金・価格統制や金融抑圧(人為的に金利を低水準に抑えること)が必要だった。

*MMTを支える三つの中核的な知見:①「貨幣は法によって生まれる」政府は民間から商品やサービスを購入するに当たり、同じ価値のものを提供する必要がないように貨幣を考案した。人々がこれを受け入れたのは、政府が承認した貨幣で税金を支払うように強制されたためである。

②ほとんどの貨幣が政府ではなく民間セクターによって生まれる。銀行は貸し出しによって貨幣を生み出し、バランスシート縮小によって貨幣を消滅させる。民間セクターの変動を相殺し、経済の安定を保つためには、財政政策(課税や政府支出の変更など)が必要となる場合が多い。

③発行者が金融資産を生み出さない限り、投資家は金融資産を所有できない。債務者が借り入れを行わない限り、債権者は貯蓄することができない。従って、世界のあらゆる人が同時に金融資産を蓄積して貯蓄を行う、ということは不可能。企業の利益が企業投資とともに増え、家計、海外および政府の貯蓄とともに減る。政府以外のセクターの貯蓄を減らすか借り入れを増やすことなく、政府債務を削減することは不可能。

*MMTの政治経済学の中で最も重要なのはインフレの扱い。世界の中央銀行の標準的な見解は、商品やサービスの「総需要」が経済の供給能力を超過した場合に物価が上昇するというものだが、MMT派の経済学者は、ほとんどのインフレは特定セクターの「ボトルネック」により生じると主張する。1990年以降の米国におけるほぼ全てのインフレは、物価指数全体の3分の1を占めるにすぎない少数のセクター(ヘルスケア(処方薬と保険を含む)、住宅、教育(教科書を含む)、「支払いを伴わない金融サービス」(銀行口座など))から生じている。

*現在MMTの政治経済モデルに最も近いのは中国。「自国通貨の独占的な供給者として得られる機会」を示しており、その結果として「公共の目的を追求するために財政赤字を計上する」ことが可能になっている。1989年の民主化運動以来、共産党は国有銀行や地方政府、国有企業への命令を通じて完全雇用を維持してきた。同時に中国政府は、与信規制、土地の差し押さえ、そして「人権の乏しさという比較優位性」によってインフレ率を抑制している。

*優れたマクロ投資家はこうした知見を普段から活用。世界最大級のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツでは、新規採用者に対して上記の知見を教えている。

 

2019年6月10日号『バロンズ拾い読み』より
2. About Modern Monetary Theory 現代貨幣理論について投資家が知るべきこと 【MMT】
MMTの基礎となる経済学的な知見は役に立つ